暇記

カキーン

「蜘蛛女のキス」初日を見に行ったのでそのことについて綴る。

「蜘蛛女のキス」のあらすじはネットで検索したら山ほど出てくるし最近文庫本も再販されたので、詳細が気になる方はそちらを読むことをお勧めします。
以下はストーリーも含め諸々バレバレなので、知りたくない方は見ないでね!そのためにSNSではなくあえてブログを使っているのだよ!






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マクベスぶりの東京グローブ座。相変わらず狭いなっていう印象。

正直、三沢光晴も驚愕レベルで会場内は緑一色、コンサートグッズの持ち込みや開演前のたっちょんコールもありうるのでは…と戦々恐々していたのだが、まったくもってそんなことはなく、客席は思ったよりも落ち着いた雰囲気だった。

入場してから開演までは約30分。あっという間に開演時間に。
初っ端、大倉くんはどんな声を発しどんな表情で舞台に現れるのか。それを見たときいったい何を感じ思うのか。自分を含め、大倉くんのファンはそんなことを延々思いあぐねていたんじゃないかなぁ。
客電が落ちるのは開演の合図。会場に緊張が立ち込めるのを感じた。


真っ暗の中、モリーナがヴァレンティンに自分の好きな映画の話を言い聞かせている場面から舞台は始まる。
モリーナの話をベッドの上で聞いているヴァレンティン。舞台は、このモリーナが話すお話とともに進んで行った。
モリーナの話に反応するヴァレンティン。第一声、耳に聞こえてきた大倉くんの声は、勿論大倉くんの声であった。でも、声の"感じ"は当然にいつもとまったくちがう。あゝ、この人は今「お芝居」をしていて、それを私は見ているのだなぁと今更なことを改めて実感してグッときた。

革命を夢見る、熱く激しく時に面倒なヴァレンティン、そんな彼を無碍に否定したり咎めることなく彼の激しさごと甘受するモリーナ。反発したり共感したり嘘をついたりつかれたり、そして傷つけたかと思えば優しくしたり・・・と、そんなやりとりを幾重にも繰り返して次第に二人の間の距離は縮まっていく。

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途中、毒を盛られてお腹を壊したヴァレンティンをモリーナが介抱するシーンがある。便を漏らしてしまったヴァレンティンを決して汚がらず世話してあげるモリーナの優しくも健気な姿に胸を打たれつつも、「腸が千切れそうだ!」と苦しそうに叫ぶヴァレンティンを見ながら『さすがに腸絡みの芝居は完璧やな』と思ってしまったのでileus incidentは本当に罪深い。


本当はヴァレンティンを陥れる任務を負っていたモリーナだけれど、時間が経つにつれてどんどんそれができなくなっていく。それどころか彼を庇い、守ろうとするモリーナ。そんな一方的な優しさに戸惑いつつも絆されていくヴァレンティン。

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こうして徐々に確たる信頼と情が双方に生まれていくのだけれど、その二人の心の機微がお芝居から自然に感じ取れたのがとても良かった。


モリーナが釈放される直前の夜、ヴァレンティンはモリーナを抱いた。
「今まで母親以外の人から愛情をもらったことがない」と言うモリーナは、ヴァレンティンに抱かれながら束の間の愛のようなものを感じて充たされる。しかしながら、セックスを無邪気なものだとしか思わないヴァレンティンがモリーナを抱いたのは、恋とか愛とかそういう熱っぽいたぐいのものではなく、感謝とか情とか、飽くまでもそういうものであって、そんな二人の決定的な相違にどうしようもないやるせなさを覚えた。

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まあこの場面では当然にベッドの上で絡み合い喘ぎ声が漏れたりもするわけで、アイドル大倉忠義のファンがギョッとなってヒィッとなるのも分かる。
でもなんていうか、後から考えるとひたすら悲しいんですよね、この媾合い。そして、この場面ばかりがクローズアップされて面白おかしくネタにされてるのを見るのも私はとても悲しい。まあ感受性なんて人それぞれなので否定はしませんが、残念だなっていうそれだけのお話ですね。


モリーナが釈放される日。ヴァレンティンはモリーナに仲間への伝言を頼もうとする。でも、それがいかに危険なことか重々理解しているモリーナは、必死にそれを拒む。
頑ななモリーナを見て託を諦めたヴァレンティンは、モリーナに別れの言葉として「他人にバカにされないようにしてほしい、自分の尊厳をもっと大事にして欲しい」と告げる。同性愛者ゆえに"変態"のレッテルを張られて人としての尊厳など事あるごとに踏みにじられてきたであろうモリーナは、その言葉に心が動き、ヴァレンティンの頼みごとを受け入れる。喜びのあまりキスをするヴァレンティン。あゝ、なんて無邪気。


その後の二人は。
結局ヴァレンティンの仲間を捕まえるための囮として釈放されたにすぎなかったモリーナは、ヴァレンティンからの頼まれごとを遂行する途中で射殺。
モリーナ釈放後、度重なる拷問を受けたバレンティンは病に罹り、苦しむ姿を憐れんだ看護師から投与されたモルヒネによって幻覚を見ながら死んでいった。
ヴァレンティンはその幻覚の中で、獄中ずっと焦がれていた仲間と愛する彼女を見た。死ぬ間際、彼が心から欲していたのは、仲間であり彼女だった。
ヴァレンティンのために命を落としたモリーナに対して、ヴァレンティンが最期に思ったのは、自身の政治活動とその仲間たち、そして愛する彼女マルタのことだった。それが本当に残酷だなって。

この最後の場面は、全てが終わったあとにヴァレンティンとモリーナが向き合ってお互いのことを話すという演出で見せられていた。
二人の心が通い合ったのは、飽くまでもあの牢獄の中でだけ。そこから一歩出た世界ではもう二度と二人が交わることは無かったんだと思うと胸が締めつけられた。

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ネタバレを必死に回避してくれようとしたのであろう、大倉くんは会見で「最後はハッピー」というなんやねんそれ的コメントで二人のラブを説明していた。
結局、(日本でいう)公安に騙されて殺されたモリーナと志半ばで拷問の末亡くなったヴァレンティン。この二人は、大倉くんの言うようにハッピーな最期だったといえるのだろうか?
私は…、千穐楽後に述べたいと思います。



終演。
お約束のカーテンコールとJ舞台お約束のスタンディングオベーション
普通スタオベって主に千穐楽とか、客が一様に感極まった時だけに起きるものなんだけど、Jはほぼ毎回起きるよね面白いね。

2回目のカーテンコールのとき、引っ込む直前に客席に向けて優しく手を振ってくれときだけいつものアイドルの顔に戻っていた。あそこで終わった方がオシャレだった気もするけど、鳴り止まない拍手を受けて再登場。お疲れ様でしたヴァレンティン、否、大倉忠義さん。そしてもちろん渡辺いっけいさんも。

以上が初日を見た雑感であります。
初日というのもあって、2、3回台詞を噛みかけたようなところもあったけどそんなのはまったくもって許容範囲で、とりあえず無事終わってよかったと心底思った。
念願だった舞台に立つ大倉くんを見られて本当にグッときたと同時に、こちらの心配とか懸念とか、そういうものが不毛に思えるくらいちゃんとヴァレンティンだったことに素直に感動した。
終演後、ツイッターでつい「じたんがいい男すぎてつらいぜ」と呟いてしまったのだけれど、その気持ちには嘘偽りはないです。本当にいい男だぜ大倉忠義
あと、単純に舞台としても面白かったのが嬉しかった。悲しくてつらかったけど、面白かったです。
公演はまだまだ続くので、どう熟れていくのかも楽しみ。くれぐれも腸には気をつけて、最後まで駆け抜けてください。

一応今のところあと4回ほど観劇予定があるので、のちのち補完したり訂正したり追記したりするかもしれませんが予定は未定ですし蜘蛛女のキスの翌日に見た俺節の感動も吐露したかったりする今日この頃。



要するに、やっぱり「舞台」ってすばらしいよね!というお話でした。